定款とは、会社の基本的なルールを定めるもので、会社はこの定款に従って運営されます。よく会社の憲法ようなものといわれます。
定款には、会社の事業目的、名称(商号といいます)や住所(本店所在地といいます)など、会社にとって基本的な事項を定めます。会社は、定款の目的に記載されている以外の事業活動をすることはできません。
会社を設立するには、定款を必ず定めなければいけません。合同会社の設立時に最初に定めた定款(原始定款といいます)は、株式会社のように公証人の認証を受ける必要はありません。
合同会社の定款の記載事項について
定款の記載事項には、絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項とがあります。
合同会社の定款の絶対的記載事項
絶対的記載事項は、定款に必ず記載しなければならない事項です。記載がないか、その内容が違法の場合は、定款が無効とされます。
- 目的
- 商号
- 本店の所在地
- 社員の氏名または名称および住所
- 社員全員が有限責任となる旨
- 社員の出資の目的及びその価額
1.目的
目的は、会社が行なう事業を列挙します。
(事業目的の書き方の例)
第2条
当会社は、次の事業を営むことを目的とする。
- ○○の製造及び販売
- △△の企画及び運営
- ××料理店の経営
- 前各号に附帯または関連する一切の事業
会社を設立してすぐに行なう事業だけでなく、今後行なう予定の事業を書きます。事業の数に上限はありません。
事業の数に上限はないとは言っても、行なう予定のない事業を書きすぎるのはお勧めしません。あまりに多いと取引先や金融機関から何の事業をやる会社なのか疑わしく思われる可能性があります。
最後の「前各号に附帯または関連する一切の事業」は決まり文句です。このように書いておくことで、事業を関連分野に少し拡大する場合に、定款変更をしなくて済むことがあります。
2. 商号
商号とは会社名のことです。
合同会社は、商号の前か後ろに「合同会社」の文字を入れなければなりません。
(合同会社○○、○○合同会社)
漢字やひらがな、カタカナの他に、アルファベットやアラビヤ数字なども使えます。
合同会社の商号については以下のページをご覧ください。
3.本店の所在地(住所)
本店の所在地とは、会社の住所のことです。
本店の所在地の書き方は以下の2種類あります。
- 「当会社は、本店を○県○市に置く。」と最小行政区画(市町村、東京の23区)まで書く
※政令指定都市の場合、市まで書けば大丈夫です - 「当会社は、○県○市○丁目○番○号に置く。」と住居表示まで書く
一般的なのは1.の方法です。この場合は、同一行政区画内で本店を移転しても定款を変更する必要はありません。
2.の方法の場合、本店を移転するには定款を変更しなければなりません。
4.社員の氏名または名称および住所
社員の氏名または名称および住所を記載します。
社員が個人の場合は氏名を記載します。法人の場合は法人の名称を記載します。
5.社員全員が有限責任となる旨
合同会社は、社員全員が有限責任社員でなければなりません。
有限責任の意味は、出資した範囲で会社の債務について責任を負うということです。もう少しわかりやすく言うと、会社が負債を返せなくなっても、経営者個人として返す義務はないということです。
合同会社の社員が有限責任である点は、株式会社の株主と同じです。
6.社員の出資の目的及びその価額
社員の出資額を記載します。
4. 5. 6.を合わせて記載することが多いです。
(書き方の例)
(社員の氏名、住所、出資及び責任)
第5条 社員の氏名及び住所、出資の価額並びに責任は次のとおりである。
金10万円 神奈川県川崎市〇〇区〇〇町〇丁目〇番地
有限責任社員 神奈川 太郎
4. と 6.を合わせて記載し、5.を分けて記載することもあります。
(書き方の例)
(社員の氏名、住所及び出資)
第5条 社員の氏名、住所及び出資の価額は次のとおりである。
金10万円 神奈川県川崎市〇〇区〇〇町〇丁目〇番地
社員 神奈川 太郎
(社員の責任)
第6条 当会社の社員は、その全部を有限責任社員とする。
合同会社の定款の相対的記載事項
相対的記載事項は、定款に記載しなくても定款の効力に影響はありませんが、定款で定めないと効力が認められない事項です。
以下に例を示します。
- 持分の譲渡についての定め
- 業務執行社員の定め
- 代表社員の定め
- 社員の退社事由の定め
- 持分の承継についての定め
- 存続期間の定め
- 解散事由の定め
- 損益分配の割合についての定め
- 利益の配当の定め
- 解散の場合における財産の処分方法の定め
持分の譲渡についての定め
原則は、
- 社員が持分を譲渡するには、他の社員全員の承諾が必要
- 非業務執行社員が持分を譲渡するには、業務執行社員全員の承諾があれば可能
となっています。
(持分の譲渡)
第585条 社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない。
2 前項の規定にかかわらず、業務を執行しない有限責任社員は、業務を執行する社員の全員の承諾があるときは、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができる。(『会社法第585条第1項、第2項』)
これらについて定款で別段の定めをすることができます。
別段の定め方の例としては、以下のようなものがあります。
- 持分の譲渡について他の社員の承諾を不要とする
- 非業務執行社員が持分を譲渡する場合には、他の社員の承諾を不要とする
- 非業務執行社員が他の社員に持分を譲渡する場合には、他の社員の承諾を不要とする
- すべての社員の持分の譲渡について他の社員全員の承諾が必要とする
- 社員以外の者に譲渡する場合には他の社員全員の承諾が必要とする
(すべての社員の持分の譲渡について他の社員全員の承諾が必要とする場合の例)
第○条 社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない。
2 業務を執行しない社員が、その持分の全部又は一部を他人に譲渡する場合も、前項と同様とする。
(社員以外の者に譲渡する場合には他の社員全員の承諾が必要とする場合の例)
第○条 社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部又は一部を社員以外の者に譲渡することができない。
2 業務を執行しない社員が、その持分の全部又は一部を社員以外の者に譲渡する場合も、前項と同様とする。
業務執行社員の定め
合同会社では原則として、すべての社員が業務執行を行ないます。
業務執行を行なう者を業務執行社員と言います。
定款で業務執行社員を定めることができます。
(業務執行社員が1人の場合の書き方の例)
(業務執行社員)
第○条 社員○○○○を業務執行社員とし、当会社の業務を執行するものとする。
(業務執行社員が2人の場合の書き方の例)
第○条 社員○○○○及び△△△△を業務執行社員とし、当会社の業務を執行するものとする。
代表社員の定め
業務を執行する社員は、原則として合同会社を代表します。業務を執行する社員が二人以上ある場合には、全員が合同会社を代表します。
合同会社は、定款又は定款の定めに基づく社員の互選によって、業務執行社員の中から代表社員を定めることができます。
(代表社員の書き方の例)
(代表社員)
第○条 当会社の代表社員は○○○○とする。
(代表社員)
第○8条 代表社員は業務執行社員の互選をもって、これを定める。
代表社員を社長と定めることもできます。
第○条 当会社の代表社員は○○○○とする。
2 代表社員は社長とし、当会社を代表する。
第○条 当会社に代表社員1名を置き、業務執行社員の中から、業務執行社員の互選によって定める。
2 当会社に社長1名を置き、代表社員をもって充てる。
3 社長は、当会社を代表する。
持分の承継についての定め
合同会社の社員が死亡した場合、その社員の持分は当然には相続されません。
(相続及び合併の場合の特則)
持分会社は、その社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合における当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができる。(『会社法第608条第1項』)
合同会社の社員が死亡した場合に、その社員の持分を相続させるためにはその旨を定款で定めなければなりません。
(持分の承継についての書き方の例)
第○条 当会社の社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合には、当該社員の相続人その他の一般承継人は、他の社員の承諾を得て、持分を承継して社員となることができる。
第○条 当会社の社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合には、当該社員の相続人その他の一般承継人は、当該社員の持分を承継して社員となる。
第○条 当会社の社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合には、当該社員の相続人その他の一般承継人は、持分を承継して社員となることができる。
第○条 当会社の社員Aが死亡した場合は、当該社員の相続人Bが社員Aの持分を承継して社員となることができる。
損益分配の割合についての定め
損益分配の割合について定款の定めがないときは、その割合は、各社員の出資の価額に応じて定まります。
損失または利益の分配の割合を出資の価額と異なる割合にする場合には、定款に定めなければなりません。
(損益分配の割合の書き方の例)
第○条 損益分配は、総社員の同意により定める。
第○条 利益の分配は、社員○○○○が6割、社員□□□□が4割とする。
2 損失の負担は、社員○○○○が6割、社員□□□□が4割とする。
利益の配当の定め
第○条 利益の配当をしようとするときは、業務執行社員全員の同意をもって、次の事項について決定しなければならない。
一 配当財産の種類及び帳簿価額の総額
二 社員に対する配当財産の割当てに関する事項
三 利益配当が効力を生じる日
2 社員は、前項の決定後でなければ当会社に対して利益配当の請求をすることができない。
合同会社の定款の任意的記載事項
任意的記載事項は、定款に記載しなくても定款の効力に影響はなく、定款で定めなくても効力が認められる事項です。公序良俗、法律に違反しない限り何でも記載できます。以下は一例です。
- 事業年度
- 公告の方法
- 社員総会に関する事項
- 業務執行社員の報酬の決め方
- 会社内部の機関・役職の定め
- 計算書類の承認 等
事業年度の定め
合同会社は事業年度を定めなければなりません。
(事業年度の書き方の例)
第12条 当会社の事業年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までの年1期とする。
事業年度末の書き方は、上記例のような「3月31日」でも「3月末日」でも大丈夫です。どちらでも問題ありません。
但し、2月末を事業年度末とする場合は、「2月末日」とします。うるう年に対応するためです。
公告の方法の定め
「官報」「日刊新聞紙」「電子公告」のいずれかから選択します。
定款に公告方法を定めていないときは、公告方法は「官報」となります。
公告の方法を「日刊新聞紙」「電子公告」するには、定款で定めなければなりません。
公告の方法を「官報」とする場合は任意的記載事項で、「日刊新聞紙」「電子公告」とする場合は、相対的記載事項と言えます。
(公告の方法の書き方の例)
第4条 当会社の公告は、官報に掲載してする。
第4条 当会社の公告は、 電子公告とする。 ただし、事故その他やむを得ない事由によって電子公告ができない場合は、官報に掲載してする。
合同会社は公告はほとんど必要ない
- 資本金の額の減少
- 吸収合併、吸収分割
- 解散 など
社員総会に関する事項の定め
会社法には、合同会社の社員総会に関する規定はありません。
社員の任数によっては、社員総会を設ける方がいい場合もあります。
社員総会を設ける場合は、次のような事項を定款で定めます。
- 社員総会を設置する旨
- 社員総会の権限
- 社員総会の招集、招集権者、議長、議決権 など
業務執行社員の報酬の決め方の定め
(業務執行社員の報酬の決め方の書き方の例)
第○条 業務執行社員の報酬については、当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければならない。
計算書類の承認の定め
合同会社には計算書類の承認義務が会社法に定められていません。
株式会社では、計算書類について株主総会の承認を受けなければなりません。
合同会社でも計算書類について社員の承認を得ると定めることができます。
(計算書類の承認の書き方の例)
第○条 業務執行社員は、各事業年度終了日から3か月以内に計算書類を作成し、総社員の承認を求めなければならない。
第○条 業務執行社員は、各事業年度終了日から3か月以内に計算書類を作成し、総社員の過半数の承認を求めなければならない。
合同会社の設立は定款が9割
合同会社の特徴として、定款自治の範囲が広いことがあります。
定款自治の範囲が広いということは、会社のルールを自由に定款で定めることができるということです。
「合同会社の設立は、定款の作成に始まり、定款の作成で終わる。」と言っていいほど、定款が重要です 。
そのためには、合同会社の定款を作成するにあたっては、上で説明した「相対的記載事項」と「任意的記載事項」をいかに活用するがポイントになってきます。